BAR IN KOBE
Concept
神戸の一角に計画された、小さなスタンドバーの内装計画です。 テーマは、日本の茶の湯文化「Chanoyu」を現代の都市のナイトライフに転写すること。 一杯の酒を介して心身を切り替える行為を、 一服の茶になぞらえながら空間として再構成しています。
強い装飾による非日常ではなく、 音・光・素材・距離感を静かに整えることで生まれる「集中した時間」をつくること。 来訪者が、それぞれの日常からほんの少しだけ距離を置き、 ふと呼吸を整えられるような「小さな茶室」としてのバーを目指しました。
Design Approach
空間構成は、Chanoyu を構成するいくつかの要素を手がかりに再編集しています。 アプローチ・しつらえ・光の扱い・音の密度などを段階的にコントロールすることで、 入店から着席、退店までの一連の時間が緩やかに変化していくように計画しています。
アプローチ – 街との緩やかな切り替え
エントランスからカウンターに至るまでの動線は、 茶室へと至る露地のような「間」として扱っています。 細かな素材の変化や、光量の段階的な減衰により、 通りの明るさからカウンター周りの親密な明るさへと、 ゆっくりと視覚と身体感覚が切り替わるようにしています。
シンプル – そぎ落とすことで立ち上がるもの
什器やマテリアルの種類はできるだけ絞り、 バックバーの構成も最小限の要素で組み立てています。 情報量を抑えることで、グラスの輪郭やボトルの影、 注がれる液体の色が立ち上がり、 「飲む」という行為そのものへの意識が自然と高まるようにしています。
整然 – 寸法とリズムによる静かな秩序
カウンターの高さ・奥行き、客席との距離、 ボトル棚のピッチや照明器具の配置など、 目立たない寸法の決定に時間をかけています。 それらの反復とリズムが、空間全体に緩やかな秩序を与え、 小さな声での会話や、氷の音が自然と馴染む静かな場をつくります。
局所的な光 – 手元にだけ宿る明るさ
空間全体を明るく均質に照らすのではなく、 カウンター天板やグラスの縁、ボトルのラベルなど、 「手が触れる場所」と「視線が落ちる場所」にのみ光を落としています。 その結果、背景はわずかに後退し、 手元と会話相手だけが浮かび上がるような、 密度の高い視界が立ち上がります。
Chanoyu における炉のまわりの明るさと暗がりの関係を参照しつつ、 現代のバーにおける居心地のよさとして、光のコントラストを再解釈しています。
Context
神戸という都市は、海と山が極端に近接し、わずかな距離の中に 光の密度や空気の温度、街のリズムが大きく変化する土地です。 その地勢は、外部環境の移り変わりに敏感で、 都市的な明るさと港町特有の湿度が複雑に重なり合っています。
計画地周辺は、夜になると街路が急に静まり、 小さな光源が点在するような、親密なスケールのナイトライフを形成しています。 その環境は、強い装飾や演出による空間よりも、 素材や光の微細な変化がふと浮かび上がるような、 奥行きのある“静かな場”を求めているように見えました。
海からの湿った風、石畳のわずかな反射光、坂道を抜けてくる夜の音の距離感。 こうした神戸特有の感覚的文脈を拾い上げ、 バーという小さな空間の中へ緩やかに翻訳することを意図しています。
都市と自然が密接に重なり合う神戸だからこそ生まれる、 “静けさの中の緊張感”のようなもの。 それを、光・素材・寸法のコントロールによって 空間の中にそっと埋め込むことで、 来訪者が無意識のうちに呼吸のリズムを整えられるような場所となることを目指しました。